世界における日本人 -何をなすべきか-

日本国政府代表 飯村 豊
※本稿は平成25年5月に行われた特別講演の筆録であり文責は編集部にあります。
※本稿は個人の見解です。
 私は日本国政府代表として主として中東問題を担当し多い時には月に2回は現地にいく毎日です。
今日は外交官人生40年のなかから、日本人にとって大切だと思うことを申しあげます。
 本日は厳しいことを言うようにとのご依頼がありましたので、あるいは耳ざわりの悪い話もあるかと存じますが、予めご容赦ください。第5回アフリカ開発会議(平成25年6月3日閉会式・横浜)[外務省提供]第5回アフリカ開発会議(平成25年6月3日閉会式・横浜)[外務省提供]
 さて日本人の外国における行動にはいくつかの特色があります。
 まず、日本人の資質の高さ。これは大変なものです。
規律、約束、時間、ルールを守る、清潔であると挙げていけばきりがありません。仕事も工夫して、新しいもの、美しいものを生み出します。しかし一方で社交は苦手です。一人ぽっちになりやすい。
 そのため外国人と相対で会話するときは対話が成立しても、マルチの場だと日本人は苦しい立場に置かれます。
 特に欧米人が中心の会は日本人にとって難しい。例えばG8の首脳会合や閣僚会合。真剣勝負です。欧米の指導者はいつも会ってますし彼らには共通の話題が多い。ポンポン話が進む中で日本の代表が発言するには相当の工夫が必要です。
 例えば政治問題をとれば最近の話題は7~8割が、イランは、パレスチナは、エジプトは、シリアは、という中東関連です。これらの地域は欧州にとって日本の朝鮮半島みたいな身近なところですので尚更そういう状況になっております。
 レセプションなどの場でも日本人はポツンです。従って自然と足が遠のく。日本人居ないなあ、となる。ライシャワーが『日本人』という本で国際会議に出て来る日本人はいつも決まっている、そこが日本人の弱さだ、と書いて40年経ってもあまり変わっていません。
 グローバル化時代とは打って出なければならない時代です。武田信玄が「人は城、人は石垣、人は堀」といいましたが日本人は時代に相応しい資質を備えなくてはなりません。明治の頃は外国とのつき合いは一部のエリートに任せればよかったが、グローバル化時代は国の敷居が下がって異質な人同士、異質な社会同士の接触が増えてきます。国内に居ても同様です。グローバル化時代は、また世界規模の大競争の時代ですその闘いに勝てないと勝ち組になれません
 むしろ中国韓国東南アジアの方々がうまくやっている。中国は多様な文化が、朝鮮は何度も侵略された歴史があり、東南アジアはこれも多様な文化があります。日本は鎖国250年を生きることができた幸運が弱さになっています。
 今や人間としての競争力、国際競争力をつけていかないと個人としても負けてしまうし、企業もそうした人材を沢山抱えているほど競争力が高まります。異質な人々と付き合って世界を広げ、情報をとって商機を掴めるからです。
 そのためにもプロフェッショナルな研修と人間としての競争力をつける研修との二つを車の両輪として重視してほしいのですが、ここでは特に私が必要だと考えることを6点に纏めてお話します。
 ①英語力。この低さは致命的弱さです。例えばインドネシア大統領が来日すると、大統領と閣僚は英語。日本の人は全員日本語で通訳を入れて話す。インドネシアは政治家役人企業人のトップクラスはみな英語を話します。英語はもはや事実上の国際語ですから出来ないと情報も話題も減ります。これは日本国家としても本格的に取り組むべき課題です。

 ②異文化を受け入れる力。違う文化を受け入れるのは確かに難しい。1960年代~1970年代に日本企業が東南アジアに大進出しましたが、その最中の1973年に反日暴動がありました。忘れてはならない事件です。進出した日本人が現地と交わらなかったのが原因の一つと言われています。その反省もありジャカルタなどの日本人が現地の文化を理解しようとする姿勢を示し、ラグラグ会というのをつくって毎週集まってインドネシアの歌を勉強し年1回披露しています。こうした努力があって日本とインドネシアには心と心の結びつきができています。このように異なる文化に愛情をもって接しているということを態度で示すことが大切です
 一方、日本の文化をそのまま持ち込むと違和感をもたれます。日本だと初対面でまず名刺を出します。しかし欧米でもアジアでも始めから名刺交換をやるということはまれです。郷に入っては郷に従う。第20回アセアン地域フォーラム(平成25年7月2日・ブルネイ)[外務省提供]第20回アセアン地域フォーラム(平成25年7月2日・ブルネイ)[外務省提供]
 つまりダブルスタンダードでいいんです外国に行ったらそこに合わせる違うスタンダードの間を自由に渡り歩くのがグローバルな人材の特質です

 ③自己主張能力。自分の意見を明確に説得力をもって述べることのできる力です。自分の会社、業種だけでなく色々な話題について自由闊達に意見交換できる力です。これには教養と常日頃から一つでいいから外国の新聞雑誌を読むことです。そうすると世界で何が問題になっているのか、輿論がどうなっているのかわかります。そうすると例えば過去に関する話は軽々にはできない。アメリカは中韓と同じ反応をします。日本は米中と戦ったからです。あっという間もなく米中が結びつき、輿論がつくられる。やるなら相場観をもって十分準備する必要があります。敗戦国はみな苦労しています。社交の場でこういう話もでますから説得力をもって開陳できる力が必要です。

 ④社交力。人付き合いをスムースにできる力。裃を脱ぐ力です。ある欧州系の有力企業の役員が、日欧の経済人同士の職業上の繋がりを超えた非公式な付き合いをしたいが遣り方がわからないと途方にくれていました。向こうが交際を望んでいるのに日本側が応えられないのです。勿体ないことです。
 ⑤国民としての意識をもっと持つ。TPP、EPAなどグローバルな時代の経済の土俵をつくるのは国ですから国が弱ければ不利になってしまいます。外国に行って問題あったときそれを解決するのも国です。国が弱いと国民は悲惨です。ですから皆が団結して自国を支えなければならないのです。軍事力、経済力、ソフトパワー(イデオロギー、文化力)とそれらを総合的に発揮できる政治力が総合的国力です。これに中国の学者は凝集力(団結する力)を付け加えていましたが、その通りです。
⑥得意技をもつ。多くの方々と親しくなるために得意技を持つことも大切です。私は50を過ぎて居合を始めたこともあって、インドネシアで居合を教えていましたらユドヨノ大統領も来場される伝統武道大会で模範演技を、と招かれました。それから大統領府などで私の姿を見つけられると大統領が居合のようなしぐさをされるなど大変親しみが深まりました。あの人の特色はこれだというのをもつのはとても大切なことです。