ハンガリーのワインと食文化
ハンガリー大使館 一等書記官 投資・貿易・観光担当
コーシャ バーリン・レイ

 ハンガリーはヨーロッパの中心に位置し、首都ブダペストは「ドナウの真珠」とも呼ばれ、世界遺産にも認定された雄大な景色が有名な街です。日本人観光客も毎年大勢訪れるようになりましたが、ハンガリーのワインや食文化については意外にも知られておりません。
 総人口1千万のハンガリーですが、実は3千万人分の食料を生産し、世界有数の食料輸出国でもあるのです。日本に向けても、フォアグラやマンガリッツァ豚、鴨肉をはじめ、ハチミツやジャム、ワインなどの輸出量が年々増え続けており、2014年は前年比+65%も取引額が伸びました。
 ハンガリーは、旧東欧圏ではもっとも古いワイン造りの歴史を持つ国として、1000年以上にもわたって世界屈指のワイン生産国として発展を続けてきました。
 ハンガリーのワイン生産量は年間約3億本ですが、特に品質の高いものを中心に4分の1程度が世界各地に輸出され、好評を得ています。日本にも仏王ルイ14世が「王のワインであり、ワインの王である」と称賛した甘口のデザートワインであるトカイの貴腐ワインや、フルーティーな白、重めで濃厚な赤などが多く輸入されるようになってきました。
 国内の22カ所にあるワイン産地は、東北部のトカイ地方、南部の南トランスダヌビア地方と大平原地方、北部の北ハンガリー地方、西北の北トランスダヌビア地方など5つの大きなエリアに分かれ、特にトカイ村周辺では甘口の貴腐ワインが多く造られています。フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼとともに世界の三大貴腐ワインの一つと称されるトカイ・アスーもこの産地で生産され、その製法は世界文化遺産の一つでもあります。このほかにも、北ハンガリー地方のエゲル市周辺の赤ワイン、バラトン湖北岸のバダチョニの白ワイン、南トランスダヌビア地方のヴィラーニやセクサールドの赤、同じく南トランスダヌビアのシクローシュの白ワイン、北トランスダヌビア地方ではエチェクや、世界遺産の修道院があるパンノンハルマの白ワインは特に質が高く、国際ワインコンクールで数々の賞を受賞する生産者を多く輩出しています。またハンガリーで最も小さな産地の一つである、ショムロー地方のユファルク(Juhfark, 羊の尻尾という意味)は、新婚初夜に飲むと男子が生まれるという言い伝えがありハプスブルグ家に永く愛飲されてきたことで有名です。
 第二次世界大戦後45年間続いた冷戦時代、ハンガリーは社会主義体制を強いられ、質より量が求められ安く個性のないワインを大量に造らねばなりませんでした。しかし1989年の民主改革以降はかつての伝統を回復し、さらに外資の導入による技術改革もあって再び個々のワイナリーが個性を発揮し、良質で特徴のあるワイン造りに努めるようになりました。量から質に転換することで品質は格段に向上し、かつての輝きを取り戻したばかりではなく、飛躍的に発展を続けています。
 イタリアやフランスでワインと料理がともに発展したのと同様にハンガリーワインも食文化とともに発展を遂げてきました。アジアの騎馬民族をルーツとし、近隣のスラブ系、ゲルマン系の民族やトルコの文化的な影響を受けたハンガリーは、独特の料理の世界を築いてきました。オスマン帝国やハプスブルグ帝国による圧政も、結果的には食文化が発展する上では重要な役割を果たしました。例えばハプスブルグの影響でソースやスパイスの種類は豊富ですし、イタリアとの交流によってパスタ類も独自の発展を遂げました。また現在のハンガリー料理には欠かせない香辛料である南米原産のパプリカは、16世紀にオスマン帝国経由で伝えられたとされています。
 豊かな水資源と森林に恵まれたハンガリー料理は、使用される食材もまた豊富です。第二次世界大戦後は、敗戦のため領土の三分の二を失ったため、現在は海がありませんが、淡水魚の鱒や鱸をはじめ、鶏、七面鳥、ほろほろ鳥などの食材には白ワインが、豚、牛、鴨、ジビエ料理などには赤が合わせられることが多いです。特に、生産量世界一を誇るフォアグラに関しては甘口の貴腐ワイン、トカイ・アスーが最高のマリアージュとされています。
 ハンガリー産のマンガリッツァ豚やフォアグラ、鴨肉には、やはり一番合うのが同じくハンガリーのワインです。日本でも馴染みある食材に、美味しいハンガリーワインをあわせ、是非お楽しみください。