安全保障上重要な土地の所有者の把握                           (2014年7月発行World Navi)

 「外資・外国人が我が国の森林を取得している」といった情報が取り沙汰されるようになったのは二〇〇九年頃からだろうか。国土にとって重要な機能を有する森林だけでなく、国境離島、防衛施設の周辺地等の安全保障上極めて重要な地域、さらには、市街地における外資・外国人による土地取得についても、メディアによる報道が相次ぎ、国民が関心を寄せると同時に、国民の間に不安感を募らせる事態が生じている
 私がこの問題に関心を抱いたのは、森林・林業の再生について調べたことがきっかけである。国土の三分の二を占める森林の保全は、産業としての林業の再生のみならず、地球温暖化への対応や水源の涵養などからも重要課題であることは論を待たない。ところが、林道などの路網の整備をしようにも、手入れのために間伐しようにも、森林の土地所有者が不明であったり境界未定の場合、放置され続けてしまうのだ。行政が森林の所有者を的確に把握できない土地法制度が森林・林業の再生を阻んでいる事実に突き当たり、何とか解決しなければとの思いから、2010年12月、当時在籍していた民主党内にプロジェクトチームを立ち上げて、私が事務局長として提言を取りまとめるに至った。同時期に同じ問題意識から自民党が議員立法を提出したことが追い風となり、森林の土地取得の届出制の導入と、土地所有者の登記簿情報を市町村が共有できる趣旨が盛り込まれた「改正森林法」が成立したのが2011年4月のことである。
 所有者不明の土地(厳密に言えば行政が所有者を把握できない土地の存在)がもたらす問題は、安全保障上重要な土地にも及んでいる。昨年五月の予算委員会において、我が国の領海外縁を根拠付ける離島が何島あるのか安倍総理に質したところ、調査中との答弁であった。離島の所有者の把握状況については、これから調査を行うところで、二年間で何とか調査を完了させたい、との答弁でもあった。安倍総理ご自身はこの状況を危惧されていると答弁時の表情から推察できたが、これまで政府においてEEZ(排他的経済水域)や領海を形成する離島の所有者について問題意識が希薄であったのであろう。
 翌六月、離島の数は約五百島であり、そのうち約二百島は海図に記されていないとの報告を総合海洋政策本部から頂いた。所有者については未だ調査中である。防衛施設の周辺地については、防衛省において七十四施設の隣接地等を対象に、合計四千八百筆の土地登記簿情報を確認し、住所が海外であったものは九筆、そのうち氏名が外国人と推測されるものは二筆との報告がなされている。
 このように行政が土地所有者を把握することが困難なのは、我が国の土地法制に起因する。離島や防衛施設の周辺地など、安全保障上重要な土地の所有者を国が把握するには登記簿情報を一筆一筆確認するしか方法はなく、しかも土地の登記はあくまでも第三者への対抗要件であって義務ではないため、実態を登記簿が正確に反映していない場合もある。不動産登記制度をはじめとする土地法制については国土を守るという視点からそのあり方について検討すべきと思うが、まずは、今、打つ手として、離島や防衛施設の周辺地等、安全保障上重要な土地の所有者を国が的確に把握するための特別措置法が必要と考えている。
 日本は土地取引についても内外無差別を原則としており、外資・外国人であることを理由に土地取引に制限をかけることはWTO(世界貿易機関)や二国間投資協定などの国際約束を考えれば現実的ではないが、国籍問わず、国家の安全保障上重要な土地の取引状況を国が把握することは主権国家として当然の行為であると考える。
 グローバル化する土地取引に対して現行の法制度が、国民生活の基盤であり、国家の有限財である国土を真に守り得るものとなっているか、見直すべきと考えている。