緊迫する国際情勢!安倍政権に望むこと 
(2013年4月発行World Navi)

 昨年末発足した安倍政権のスタート100日間における外交安全保障政策は概ね安定している。野党議員がこう言えば訝しがる方も多いとは思うが、外交や安全保障において元来与党も野党もない。ただ国益あるのみだ。とくに私たちは、昔のような万年野党ではなく、曲がりなりにも3年余政権を担った経験を持つ健全野党の一員としての自負があるから尚更国益の観点から現政権の対外政策を公正な目で分析し、正すべきところは正しつつ、対外姿勢は日本国として一枚岩であるべきだと考える。
 やはり最大の懸案は中国だろう。もちろん、最近の北朝鮮の暴走・暴言ぶりは目に余るし、北の核とミサイル、さらにサイバー攻撃能力は我が国にとり「明白かつ現在の脅威」に他ならないが、戦後半世紀にわたって培ってきた日米韓の連携による抑止体制は確立されており、いかなる急迫不正の侵害に対しても反撃態勢はほぼ整っている。さらに、国際社会による制裁など北に対する圧力はかつてないレベルにある。暴発すれば、かえって徹底的に破壊されるであろうことは、北の指導者が十分認識しているところだ。したがって、やはり中長期的なトレンドも含め、我が国にとり最大の戦略的課題は台頭する中国にどう対応するかである。
 昨年の尖閣諸島「国有化」(正確には、これまで民間所有者から賃借していた魚釣島、南小島、北小島を政府が購入。大正島は1921年政府購入済みで、残る久場島のみ民間所有で引き続き防衛省が賃借)以来、中国公船(海監、漁政など)による領海侵犯が続き、最近では領空侵犯や人民解放軍海軍の軍艦による射撃管制用レーダーの照射行為等、その常軌を逸した行動は日に日に激しさを増している。しかし、中国の行動を昨秋以来の尖閣をめぐる事態にのみ矮小化してはならない。今私たちが直面するのは、尖閣諸島をめぐる我が国の実効支配に対する挑戦にとどまらず、1980年代初頭に「中国海軍の父」劉華清提督によって策定された「近海防御戦略」に基づき営々と築かれた海洋戦力を背景にした中国による国際秩序に対する挑戦なのである。
 すでに同じことが南シナ海でも70年代から力の空白を埋めるかたちで着実に進行してきたのである。すなわち、73年に米国がヴェトナムから撤退するや翌年に南沙諸島へ、87年にソ連がヴェトナムから引き上げると翌年には西沙諸島へ侵攻し、92年に米国がフィリピンから完全撤退すると3年後にミスチーフ環礁を軍事占領したのだ。ミスチーフをめぐっては鄧小平がマルコス、アキノ両大統領(74年、88年)に対し二度にわたり「棚上げ」を申し入れていたにもかかわらず、米比関係が険悪化し米軍が撤退するやいなや力で占領したのである。2000年代後半に再燃したヴェトナムやフィリピンとの南シナ海紛争も、米国が中東でのテロとの戦いに没頭している空白を突いて中国が強硬な姿勢に転じた結果である。じっさい、アフガン戦争開始前の2001年時点で約10万人展開していたアジア太平洋の米軍兵力は、2010年には7万人余と約3割も減っていたのである。
 安倍政権に望むことはただ一つ。こちらから事態をエスカレートさせることがあってはならないが、安易な妥協は禁物ということだ。なぜなら、尖閣諸島に対する中国の圧迫は、単に我が国の主権と領土に対する挑戦というにとどまらず、東南アジア諸国も含むアジア太平洋地域における戦後秩序に対する挑戦であり、尖閣からわずか数時間の距離にある沖縄を含む南西諸島が連なる第一列島線に対する中国の「無力化戦略」の一環であるからだ。かりに尖閣を陥れられて南西諸島が脅かされるような事態になれば、西太平洋における地政学的なバランスは大きく崩れるであろう。それを十分に米国にも認識させ、同盟協力を深化させるとともに、与那国島への陸上自衛隊配備や陸自の海兵隊化など南西方面に対する我が国独自の防衛態勢の構築を急ぐべきだ。